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東京高等裁判所 平成8年(ネ)4725号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は、別紙対照表の「原告テスト問題該当部分」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。

三  控訴人は、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く「被告作成テスト問題」欄記載の問題を印刷し、販売頒布してはならない。

四  控訴人は、被控訴人に対し、金二七一万円及びこれに対する昭和六三年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被控訴人のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その七を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

七  この判決の第二項ないし第四項は仮に執行できる。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2 被控訴人の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却の判決

第二  事実関係

次のとおり、訂正するほか、原判決の事実摘示(六頁一〇行ないし五八頁五行)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二九頁八行の「昭和六二年二月一日から同六三年一月三一日まで」を「昭和六二年一月二七日から同年一二月一三日まで」と改める。

2  同三四頁一〇行の「販支払い」を「支払い」に改める。

第三  証拠《略》

第四  当裁判所の判断

一  次のとおり訂正するほか、原判決の理由(五八頁九行ないし一一三頁四行)と同一であるから、これを引用する。

1 原判決九四頁九行の「67」を「65」と改める。

2 同一〇二頁六行ないし一〇四頁末行を次のとおり改める。

「本件において、遅くとも原判決が控訴人代理人に送達された時(記録によれば、平成八年九月三〇日に原判決が控訴人代理人に送達されていることが認められる。)に、控訴人は、別紙対照表の理科の58の問題を除く被告問題が被控訴人の著作権を侵害する行為によって作成されたものであるとの情を知ったものと認められる。したがって、被控訴人は控訴人に対し、著作権法一一三条一項二号、一一二条一項に基づき、印刷した別紙対照表の理科の番号58を除く被告問題の販売等の頒布行為の差止めをも求めることができる。そして、被告問題が被控訴人の著作権を侵害することを争う控訴人の態度に照らせば、被告問題の販売等の頒布行為の差止めを求める被控訴人の請求は、別紙対照表の理科の番号58の問題を除く被告問題につき、その請求の利益及び理由があるが、右に理由があるとした分を超える部分は理由がない。

2 訴え変更前の旧請求についても、原告問題が編集著作物性を有し、控訴人主張の抗弁は理由がないこと、控訴人は原告問題を複製した被告問題を印刷し、販売頒布していること、並びに、原判決が控訴人代理人に送達されたことは既に認定判断したとおりであり、控訴人は、その取下げに同意することを拒否し、原告問題の著作物性を争うとともに、引用による利用との主張及び被控訴人から黙示の承諾を得たとの主張を行っているものであり、このような控訴人の本件訴訟における態度によれば、控訴人が原告問題を別紙対照表の理科の番号58を含めてこれを印刷して複製し、これを販売等頒布して利用するおそれがあるものと認められるから、旧請求は理由がある。」

3 同一〇七頁三行の「同六三年一月まで」を「同六二年一二月ころまで」と改める。

4 同一〇七頁四行ないし六行を、「(2)昭和六二年一月ころから同年一二月ころまでにおいて、控訴人は、四教科の被告問題の入った「四進レクチャー」六八週分(各教科の問題の37、38が別々に二週分として販売されたと認めることはできないから、右各教科の問題の37、38を一週分として計算すべきである。) を少なくとも二〇〇名に一週分一部当たり二〇〇〇円で販売したこと、」と改める。

5 同一一一頁一〇行ないし一一三頁四行を次のとおり改める。

「<1> 「四進レクチャー」が一部二〇〇〇円で販売されたことは前記のとおりであり、一部当たりの一教科の販売価格は五〇〇円に相当するから、理科を除く三教科に関しては、控訴人は、六八週分を少なくとも二〇〇名に販売しており、この部分の対価は、次式のとおり二〇四万円となる。

一五〇〇円×六八週×二〇〇名×〇・一=二〇四万円

<2> 理科については、次式のとおり六七万円となる。

五〇〇円×六七週×二〇〇名×〇・一=六七万円

(2) 従って、右<1><2>を合計した二七一万円が、原告問題を利用するについての通常の対価と認められ、被控訴人が蒙った損害と認められる。

(六) なお、本件において控訴人に不当利得が成立するとしても、右(五)に認定した二七一万円を超える損失が被控訴人に生じたことを認めるに足りる証拠はない。

3 よって、被控訴人の金銭請求は、複製権侵害の不法行為による損害金二七一万円及びこれに対する不法行為の日以後である昭和六三年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、これを超える分は理由がない。」

二  控訴人の当審における主張に対する判断

控訴人は、次のとおり、原判決の認定、判断を非難するが、いずれも理由がない。

1 控訴人は、「(三) 原告問題作成に当たっての指針等」(原判決六九頁二行ないし七二頁九行)を認定したことにつき、著作権の保護すべき表現と、保護されない内心とを混同するものであるなどと主張するが、右認定は、編集著作物の成立要件である素材の選択又は配列における創作性を認定する必要上、原告問題の作成に当たり具体的にどのような方針等が採られているかを認定するものであり、著作権の保護すべき表現と保護されない内心とを混同するものではないから、この点の控訴人の主張は採用できない。

2(一) 控訴人は、原告問題は日曜教室で使用される以上、その作成依頼は進学研究社から被控訴人に対して行われると考えるのが自然であり、そうすると、原告問題を作成するか否かの意思も、当然に進学研究社の判断にかかっていることは明白であるから、被控訴人の発意とは認められないのは自明の理である旨主張するが、控訴人の右主張は、進学研究社からの発注と、その発注を受けた被控訴人内部での発意とを混同するものであるから、到底採用できない。

(二) 控訴人は、「右「四谷大塚進学教室」との表示を、進学研究社が主催する日曜教室の名称として広く一般に知られている名称を表示したものと解する余地もあるが、そうだとしても、前記一に認定した進学研究社と原告との関係に照らせば、「四谷大塚進学教室」との表示は、子会社である原告と進学研究社の企業結合の表示と見るのが相当であり、これをもって原告の著作の名義の下に公表したものと解することに支障はない。」(原判決八七頁四行ないし九行)と判示した点につき、「企業結合の表示」というのであれば、それは著作名義の表示ではないことは自明の理であると主張するが、「四谷大塚進学教室」との表示により被控訴人と進学研究社の表示はされているが、法人等の業務に従事する者の表示はされていないものであるから、この点の控訴人の主張は採用できない。

(三) 控訴人は、被控訴人は「その個人的な独自の創意ないし創作が入る余地は全くあり得ないものであるから、この点からも、原案執筆者の原案について著作権が発生することはない。」(被控訴人の原審における平成六年一〇月三一日付け準備書面五丁表七行ないし九行)と主張して、原案の作成行為の段階では編集著作権は発生しない旨明言し、原案執筆者の行為ではなく、引き渡し後の編集、校正が編集著作物の根拠であると主張していたとし、原案執筆者が行った作成行為のみの判断で編集著作権を認める旨の認定をしたことは、弁論主義に違反する旨主張するが、右準備書面中の主張も、その前にある「各原案執筆者が原案を作成するに当っては、当該原案の内容について、あらかじめ原告の発意、創意に基づく詳細な作成方針、作成内容、作成条件等の指示がなされており、原案執筆者は、原告の当該指示に従って原案を作成しなければならない立場にあり、」との記載に続けて読めば、法人等の業務に従事する者がその職務上作成するものであることを強調する表現であると認められるし、他に原案執筆者の行為を編集著作行為として主張しないことを認めるに足りる準備書面中の記載はないから、この点の控訴人の主張は採用できない。

3(一) 控訴人は、被告問題は、原告問題を素材として、児童の教育面から、それに適さない部分を手直ししたり、差し換えたりして修正し、また、問題の組み替えなども行って作成しているものであり、原告問題と被告問題とはそもそも実質的に同一ではない旨主張するが、原判決(八九頁七行ないし九五頁二行)の説示のとおり、この点の控訴人の主張は採用できない。

(二) 控訴人は、被告問題が原告問題に依拠していると認定した点(原判決九五頁三行ないし八行)につき、編集著作権については、そもそも素材として他の著作物等を利用すること、すなわち、それら被利用物の存在を前提にして創作することが予定されているから、依拠があることだけで、それをもって編集著作権侵害と解することは、著作権法一二条の理解を誤ったものである旨主張するが、原判決が先に認定したのは、編集著作物である原告問題に依拠したことであるから、素材として他の著作物を利用することを前提とする控訴人のこの点の主張は採用できない。

4 控訴人は、引用とは独立した主張として、「批評活動」の主張をしていた旨主張する。しかしながら、著作権法三二条一項が「その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」と規定していることから明らかなように、引用の目的と切り離された引用の主張自体成り立ち得ないものである上、批評活動を引用とは独立した主張であるとしても、原判決が先に説示したところ(九七頁四行ないし九九頁四行)がそのまま当てはまるから、控訴人のこの点の主張は理由がない。

5(一) 控訴人は、差止めについての判示内容からすると、「四進レクチャー」が今後製作、販売されようとした場合に限りその製作、販売が差止められ、損害賠償義務が生じることとなる旨主張するが、「情を知って」(著作権法一一三条一項二号)の要件は販売等の頒布行為についてのみ要求されるものであるから、この点の控訴人の主張は採用できない。

(二) 控訴人は、被告問題がすべて被控訴人の主張する期間に販売されたものではない旨主張するが、原審における控訴人代表者尋問の結果によれば、被告問題が必ずしも毎年改訂されるものではないことがうかがわれる上に、控訴人は昭和六二年一月ころから同年一二月ころまでにおいて販売頒布された実際の被告問題を提出しようと思えば提出できると認められるのにこれをしていないことに照らすと、控訴人のこの点の主張は採用できない。

(三) 控訴人は、乙第八九号証の一ないし一五、乙第九〇号証の一ないし一五、乙第九一号証の一ないし八、乙第九二号証の一ないし七及び乙第九三号証に基づき、各週四教科につき少なくとも二〇〇名との販売数は過大である旨主張する。しかしながら、《証拠略》によれば、昭和六二年一〇月ころに進学研究社の社員である中村信義が控訴人を訪れた際、控訴人の当時の代表者は、右中村に対し、販売部数は各回二〇〇部くらいであると回答したことが認められ、さらに、《証拠略》によれば、四進レクチャーは朝日小学生新聞でも広告されていることが認められ、これらの事実によれば、各週分少なくとも二〇〇名に販売されたと認定すべきである。これに反する右乙第八九ないし第九三号証は、被控訴人が平成四年九月二五日付け文書提出命令申立書により「被告作成の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月二日までの間の「四進レクチャー学習教材」に関する売上の記載のある元帳並びに同期間の同教材の購入申込書、若しくは、これらの帳簿に相当する内容の記載のある商業帳簿類。」の文書提出を求めたのに対し、控訴人代表者は、平成六年七月二五日の原審第九回口頭弁論期日において「原告の文書提出命令申立にかかる文書は、何れも被告は所持していない。」と述べていること、並びに、乙第八九号証の一ないし一五、乙第九〇号証の一ないし一五、乙第九一号証の一ないし八及び乙第九二号証の一ないし七は、会員ごとの購入申込状況をコンピューターにより管理する際の入力用に作成した控え(乙第九三号証一頁参照)であるとしても、乙第八九ないし第九二号証には、会員番号のみが記載され、会員名が記載されていないことに照らすと、その信用性に疑いを持たざるを得ないから、採用できない。

(四) 控訴人は、原告問題を利用するについての通常の対価は、「四進レクチャー」の販売価格(売上高)の一〇パーセントと解したことを争うが、その根拠として認定した事情(原判決一一〇頁八行ないし一一一頁五行)を左右するに足りる的確な証拠もないから、この点の控訴人の主張は採用できない。

三  結論

以上によれば、被控訴人の請求は、主文第二項ないし第四項掲記の限度で理由があるから認容すべきところ、これと異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条二項、六一条を、仮執行の宣言につき二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤 博 裁判官 浜崎浩一 裁判官 市川正巳)

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